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第6回
表層からは覗えない、中国エコカー開発の実情
中国市場へのハイブリッド車(HEV)の導入は、トヨタ、ホンダが先行した。しかし、車両価格の高さや大型車を好む消費者の嗜好などを背景に、ハイブリッド車の販売は低迷している。このような状況を反映して、昨年11月に開催された広州モーターショーは、一部のメーカーを除いて、ガソリン車の品質や性能をアピールする展示が目立った。しかし一方で、中国は深刻な大気汚染やエネルギーの安定確保などの問題を抱え、自動車の石油燃料への依存軽減は国家的な課題となっている。中国政府は、ハイブリッド車、電気自動車(EV)を中心とするエコカーの普及とエコカー産業の振興計画をスタートさせた。中国各地でエコカーの開発・生産拠点の建設が進み、中国系自動車メーカーと欧米系サプライヤーの提携が活発化している。日系メーカーは、長期的な視点から怠りのない準備が必要である。
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(白石泰基=テクノアソシエーツ)
中国でのハイブリッド車の発売は、トヨタが先鞭をつけた。トヨタは、2005年にプリウスの現地生産を開始、翌年1月から販売を開始した。これに遅れること約2年、ホンダは2007年末にシビックハイブリッドを発売、ハイブリッド車でトヨタに追随した。しかし、中国でのハイブリッド車の販売は低調である。フォーイン社の調査によると、2008年の平均の月間販売台数は、プリウスが40台、シビックハイブリッドが10台であった。
中国でハイブリッド車の販売が低迷しているのは、一つには販売価格の問題がある。小型乗用車の中心価格帯が10万元であるのに対し、プリウス、シビックハイブリッドの価格は27万元前後に設定されている。プリウスは日本から部品を輸出して現地でのノックダウン生産、シビックハイブリッドは完成車の輸入販売であることから、販売価格は高止まりせざるを得ない。しかし、27万元というのは上級車の価格に相当し、一般の消費者には手が届かない。一方、高額所得者をターゲットにした場合でも、ハイブリッド車は訴求力を欠いている。中国の高額所得者は自動車にステータスを求めるため、この層の消費者は同じ金額を出すなら、大型車を購入するのである(図1)。
「先進国ではロハス(LOHAS: Lifestyles of Health and Sustainability)というライフスタイルが生まれています。しかし、中国にはまだそのようなライフスタイルは見られません」こう語るのは、ジェトロ広州事務所の横田光弘氏である。同氏は、中国の消費者を間近に見ながら、中国ではエコにプレミアムを支払う消費者は少ないと観察する。横田氏によれば、中国の消費者が車を購入するとき、購入者は見栄えのする車のなかから自らのサイフの大きさに見合ったものを選ぶのだという。そのため、内陸部では見栄えはするが手頃な価格の車が、沿岸部では高級なステータスを感じさせる車がよく売れているのだ。
昨年11月に開催された広州モーターショーは、エコカーが中心に出品されたフランクフルト・モーターショー(昨年9月)、東京モーターショー(昨年10月)とは様相が大きく異なった。自動車メーカーによって、エコカーの出品数に大きな違いが表われたのである。図2は、トヨタ、日産、ホンダ、フォルクスワーゲン、GMの5社について、広州モーターショーでのエコカーの出品状況をまとめたものである。
エコカーの出品に最も熱が入っていたのはトヨタである。トヨタは、ハイブリッド車や電気自動車のコンセプトカー3台をメインステージに据えたほか、プリウスやカムリハイブリッドのカットモデルを始めとするハイブリッド車の技術展示を行い、積極的にハイブリッド車をアピールした(図3)。トヨタは、さらにレクサス・ブースでも独立したハイブリッドコーナーを設け、レクサスハイブリッド3モデルを展示した(写真1、2)。
日産はメインステージに、電気自動車のコンセプトモデル「NUVU」と排気量3,500ccの「ティアナXV」を並べて展示した(写真3)。日産は、昨年10月の東京モーターショーでは、電気自動車を全面に押し出した展示を行っていた。しかし、広州モーターショーでは将来製品と現行商品で展示のバランスをとったといえる。電気自動車に関係した展示は、「NUVU」の他に、電気自動車用リチウムイオンバッテリーなどが出品された(写真4)。2011年に中国への導入が決まっているリーフの展示はなかった。
ハイブリッド車をラインナップに取り揃えながら、エコカーの出品に消極的だったのはホンダである。ホンダの展示は、広州ホンダと東風ホンダの2つのブースに分かれて行われた。エコカーの出品は、シビックハイブリッドを扱う東風ホンダのブースで、シビックハイブリッドを展示したにとどまる。ホンダ・ブースのメインステージを飾ったのは、東風ホンダは排気量2,400ccのセダン「スピリア」、広州ホンダは中国累計生産販売台数が百万台を突破した主力モデル「アコード」であった(写真5)。
フォルクスワーゲン(VW)は、昨年9月のフランクフルト・モーターショーでは、ハイブリッド車や電気自動車を出品したが、広州モーターショーではエコカーの出品はなかった。広州モーターショーでは、VWはガソリン車のラインナップに燃費向上技術であるTSI+DSGを広く取り揃えていることを大きく打ち出した(写真6、7)。
プラグイン・ハイブリッド車「シボレー・ボルト」を開発中のGMは、ハイブリッド車として排気量6,000ccの大型SUV「キャデラック・エスカレード・ハイブリッド」を出品した(写真8)。GMは、同モデルを中国で2009年4月から販売している。車両のそばには、同モデルに搭載されているハイブリッド駆動システムが展示されていた(写真9)。今年中にも米国で発売が予定されているプラグイン・ハイブリッド車「シボレー・ボルト」の展示はなかった。
モーターショーの展示を見る限り、中国ではエコカーはまだ遠い存在のように見える。しかし、深刻化する大気汚染や将来的な石油燃料の需給の逼迫などを考えると、どこかでハイブリッド車や電気自動車に向き合わざるを得ない。大気汚染について言えば、中国都市部の大気汚染レベルは国連の専門機関であるWHOが定める基準値の5倍に達している。WHOの指針によると、大気中の粒子物質の濃度が1立方メートル当り20μgを超えると大気汚染とされる。これに対し、中国都市部の大気中の粒子物質濃度は2004年の測定で、重慶、天津で100μg/m2、北京で89μg/m2であったという。このような大気汚染は、当然、喘息、気管支系疾患など深刻な健康被害につながる。また、大気汚染によるスモッグの発生は、交通機関の運行にも影響を及ばしている。昨年11月26日、おりしも広州モーターショーの開催期間中に、広州で濃いスモッグが発生した。市内の視界は3〜4キロ程度に遮られた。航空便24便が遅延し、多くの市民が足止めをされたという(図4)。
エネルギー問題の視点からも、エコカー推進が求められる。図5に、中国のエネルギー消費の将来規模を示した。現在、中国の一人当り年間エネルギー消費量は石油換算で1.1トンである。これは、同4.2トンの日本の25%、7.9トンの米国の14%に過ぎない。しかし、エネルギー消費総量では、中国はすでに世界のエネルギー消費の15%を占めている。仮に、中国の一人当り年間エネルギー消費量が日本並みに増加すれば、中国は現在の世界エネルギー消費の約60%に相当するエネルギー量を必要とすることになる。さらに、中国の一人当り年間エネルギー消費量が米国なみに増加すると、中国が必要とするエネルギー量は、現在の世界のエネルギー消費総量を上回る。
中国政府は、ハイブリッド車や電気自動車を中心とするエコカーの普及と産業育成に向けた取り組みをスタートさせている。中国政府のエコカー振興に関する取り組みは二つある(図6)。一つは、「十城千輌プロジェクト」である。これは、2009年から2012までの4年間で、中国の10ヶ所以上の都市で、1都市あたり1,000台以上のエコカー(ハイブリッド車、電気自動車、燃料電池自動車)を導入するというものである。中国政府は、対象都市を選定し、地方政府が導入するエコカーの購入費用や関連施設の建設費用に補助金を支給する。補助金は、電気自動車の乗用車が6万元、ハイブリッド車の場合はハイブリッド方式や性能により異なるが、最高5万元が支給される。地方政府は、公共交通機関、郵便、公用車を対象にエコカーの導入や必要な施設の建設を進める。中国政府は、すでに対象の13都市を選定、総計3万台以上のエコカー導入計画が進められている。
中国のエコカー政策のもう一つの柱は、「自動車産業振興計画」である。これは、2009年から2011年を実施期間とする中国の自動車産業振興の3ヵ年計画である。この計画は、市場拡大策、産業構造調整策、エコカー普及策などからなる。エコカーの普及目標は、販売台数で乗用車全体の5%、生産規模で年産50万台としている。中国政府は自動車関連企業の技術開発力の向上やエコカーと部品開発支援のために、3年間で総額100億元を助成する。さらに中国政府は、都市部でのエコカー普及のための補助金を準備する。
このような中国政府の後押しを受けて、中国各地にエコカーの産業基地の建設が進んでいる。十城千輌プロジェクトは、地方政府がエコカー調達先に地元企業を優先的に指名することにより、地方政府と地元企業の結びつきを深めた。そして、各地に産学官が連携したエコカーの開発・生産拠点が誕生している(図7)。長春では吉林省政府が、第一汽車、吉林大学、東北師範大学などによる産学官連携を推進している。重慶では長安汽車を中心に、30のメーカーや研究機関が参加するエコカーのアライアンスが発足した。上海でも、上海汽車と上海政府がエコカーの産業基地を建設している。
さらに中国系自動車メーカーと欧米のシステムサプライヤーとの連携が活発化している(図8)。中国系自動車メーカーは、欧米のシステムサプライヤーからの技術供与やコンポーネント供給を受け、エコカーの開発・生産能力を構築中である。米デルファイは上海汽車に乗用車用ハイブリッドシステムを提供する。上海汽車は、2010年中にハイブリッド乗用車「栄威750」の導入を予定している。独ボッシュと米ジョンソンコントロールは奇瑞汽車に、それぞれハイブリッド車のエンジン・マネジメント・システムとニッケル水素電池を提供する。奇瑞汽車は、昨年ハイブリッド車「A5ハイブリッド」を発売した。既に大連市などから250台を受注している。
表層上は中国でのエコカー普及は、まだ先のことのように見える。しかし、日本を始めとする先進国においても、ハイブリッド車や電気自動車の認知は、ここ1〜2年の間に急速に進んだ。中国においても、ある段階を境にエコカーが急速な認知を得る可能性もある。わずか数年前までは、環境対応車の牽引役としてクリーンディーゼル車、ハイブリッド車、バイオ燃料車が注目を集めた。電気自動車の本格実用化は、当時、将来のことと思われていた。しかし、現在、電気自動車は現実のものになっている。2009年7月に三菱自動車と富士重工から小型ながら高性能な電気自動車が発売された。日産は今年、ガソリン車並みの価格で、5人乗りハッチバックの電気自動車を発売する予定である。
ハイブリッド車についても、人気の高まりは急な現象といえる。プリウスの販売台数は、2008年が約7万台であったのに対し、2009年は約21万台である。この1年で一気に200%の増加を見せた。プリウスは、軽自動車を含め2009年に日本で最も多く販売された自動車になった。ホンダのインサイトは2009年に約9万台を販売した。インサイトとプリウスを合わせると、2009年のハイブリッド専用車の販売台数は約30万台となり、2008年からの増加率は300%を超える。
中国においても同様に、エコカーの普及は不連続な変化として起きる可能性が十分に存在する。中国に成長機会を見出そうとする自動車関連企業は、今から怠りのない準備を進める必要がある。
(シリーズ完)
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